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1章:出会い (4/4)

日曜日、パブが休みなので、ヒナは夕方から恭に呼ばれアパートへ向かった。


ふとした瞬間に、恭の唇や舌の感触を思い出す。


もっと…
もっと近づきたい。

トクン……
トクン…

胸の鼓動が押さえられなくて、ヒナは車の窓を開けた。


ここはもう恭の街。

生暖かい風は、なぜか恭のにおいがする。

ビューと窓から入り込んだ風が、ヒナの髪を揺らした。



その夜恭は、ヤクザが集まる店にヒナを連れて行き、
「俺の女だ」

と、紹介した。


若いヒナに対して、いやらしい視線を送る男もいれば、
恭のとなりにいるヒナに対して、敵意の視線を送る女もいた。


しかしヒナは、嬉しかった。

私は恭の女。


ヤクザの女だけど、それで良かった。

恭と一緒にいたい。
恭の近くにいたい。



雨が降ってきた。


ヒナは、パブに電話をして、辞める事を告げた。

店のママは何か言っていた。
それはとても大切な言葉だったのかもしれないが、雨の音でよく聞こえなかった。


ヒナは電話を切ると、後ろを振り返った。

恭の舎弟が傘を差し出す。


雨を弾く恭のマジェスタは、相変わらず真っ黒で、
ヒナはその綺麗な闇の色をボンヤリと見つめていた。


恭の優しい声と共に、大きな足音が水溜まりから聞こえたので、
ヒナは顔を上げ微笑んだ。

「恭………」
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透明な世界 ©著者:品川

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