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9章:河童井戸
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9章:河童井戸
その日、僕は友人Sの運転する車に乗って、県境の山奥にあるという廃村に向かっていた。
メンバーは三人で、いつも通り。運転手がSで助手席に僕。もう一人、後部座席を占領しているのがKだ。僕らが街を出たのは午前十時頃で、途中で昼食休憩をはさみ今は二時過ぎ。目的の廃村までは、あと一時間といったところだった。
車は現在、川沿いのなだらかな上り坂を、ゆったりとしたペースで上っている。
僕は開いていた地図に再び目を落とす。これから行く廃村はもはや地図に載っておらず、赤ペンでぐりぐりと印がつけられている場所が、僕らの目的地だ。等高線の感覚がかなり狭い。それだけ辺鄙な場所にあるということだ。
ふと、後部座席の方から軽いいびきが聞こえる。
「……毎度毎度思うんだが。どうしてこいつは人を足代わりに使っときながら、後ろで一人悠々と寝てられんだ?」
一度バックミラーを覗き込み、不快と言うよりは、もはや呆れた口調でSが言う。今日の、この日帰り廃村ツアーを企画立案したのはKである。
『この廃村にはな、不思議な井戸があるらしいんだとよ』
昨日大学の学食にて、目を少年の様に輝かせ僕とSに語るKは、生粋のオカルトマニアである。僕とSはこれまでにもう何度も、Kの導きによってそういうスポットに足を踏み入れてきた。もちろんハズレも多かったが、たまにアタリもあった。
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