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1章:死んだ後に残るモノ (2/8)

「キャア!!」ガシャン!!


ファーストフードの店内に短い悲鳴とグラスの倒れた音が響いて、辺りは一瞬静まりかえった。


歩美は両手を口に当てたまま、まだ怯えた表情をしている。
僕は店員にダスターを借りて、歩美の倒してしまったアイスミルクティーを拭いた。


回りにいる客に軽く頭を下げて騒がせてしまった事を謝り、その後もう一度席に座った。


「大丈夫?」
孝哉は隣に座る歩美の華奢な背中を擦りながら言った。


やっと我に返り、か細い声で
「ごめんなさい」
と言葉を発したのは、彼女の手からミルクティーが滑り落ちた数分後だった。


「やっ、服汚れちゃった!」


ピンクの大きなリボンのついた鞄から花柄のハンカチを取りだして、デニム生地のワンピースを拭き始めた。


「もう、……買ったばっかだったのにー。遥が怖い話するからだよー」
頬ををふくらませて怒る歩美を横目で少しだけ見た。


硬いソファーの背もたれの部分が、他の客席との空間を区切る仕切りになっていて、歩美の上から隣の客席に座る小さな女の子が顔を出した。


僕が笑顔で手を振ったら女の子は恥ずかしそうに一度隠れて、手にポテトを握って再び現れた。


僕がふざけて口を開けると、女の子は少し困った顔をして考えていた。
首を傾げて僕を見ている女の子がなんか可愛くて、もう少しからかいたくなった。


「アーン」と言いながら開けた僕の口に、ポテトを入れようと精いっぱい腕を伸ばしたその時、女の子が持っていたポテトが歩美の頭の上に落ちてしまった。


さっきみたいに怒ったふりではなく、本気で苛ついた表情で小さく、「最悪」と呟いた。


不穏な空気の流れを感じとり、僕はカウンターに人数分の二杯目のドリンクを買いに行くことにした。



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愛の夢 ©著者:心菜

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