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20章:京ー月光
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20章:京ー月光
月は湖に映り反射し、湖面に一筋の道を作っていた。
神々しいまでに美しい光景だった。
「京……月の道だ」
「うん……」
ーーーーーー
〜あの頃〜
人を信ずることは人を救ふ。
かなり不良性のあったわたくしを
智恵子は頭から信じてかかった。
いきなり内懐に飛びこまれて
わたくしは自分の不良性を失った。
わたくし自身も知らない何ものかが
こんな自分の中にあることを知らされて
わたくしはたじろいた。
少しめんくらって立ちなほり、
智恵子のまじめな純粋な
息をもつかない肉薄に
或日はっと気がついた。
わたくしの眼から珍しい涙がながれ、
わたくしはあらためて智恵子に向った。
智恵子はにこやかにわたくしを迎へ、
その清浄な甘い香りでわたくしを包んだ。
わたくしはその甘美に酔つて一切を忘れた。
わたくしの猛獣性をさへ物ともしない
この天の族なる一女性の不可思議力に
無頼のわたくしは初めて自己の位置を知った。
※高村光太郎
詩人・画家・彫刻家
1883年- 1956年
「智恵子抄」より
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愛ヲ乞ウーー遺された心 ©著者:七斗
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