1章:葛藤 (2/9)

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“カタカタカタカタカタカタカタ……”


ファーストフード店の喫煙室。

そいつは魚が死んだような眼をして窓の外を朧げに見つめ……貧乏揺すりを続けていた。


健太が100円コーヒーを持って、この閉塞した空間に入ってから、早30分は過ぎている。


“カタカタカタカタカタカタカタ……”


ひと時も止む事の無いその音。


街は赤と緑の飾りにまみれている冬だというのに。

その男は、薄い汚れたジャージを来て素足に夏のサンダル。髪と髭は伸び放題だ。

焦点の合わぬ眼。絶え間なく吸い続けるタバコ……


(ーーああ、こいつは俺と同類だ。
浅いドブ底の“闇”の中でしか生きられねぇ)


田岡健太(たおか けんた)は灰皿にタバコを揉み消して鬱蒼(うっそう)とした霧が立ち込める狭い部屋を出た。


何をやっても上手く行かなかった。いつも誰かに搾取されて生きて来た。



ーー他に道は無かった。