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5章:④ 青樹の梢をあふぎて
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5章:④ 青樹の梢をあふぎて
『青樹の梢をあふぎて』
(あおきの こずえを あおぎて)
まづしい、さみしい町の裏通りで、青樹がほそほそと生えてゐた。
わたしは愛をもとめてゐる、
わたしを愛する心のまづしい乙女を求めてゐる、
そのひとの手は青い梢の上でふるへてゐる、
わたしの愛を求めるために、いつも高いところでやさしい感情にふるへてゐる。
わたしは遠い遠い街道で乞食をした、
みぢめにも飢ゑ(うえ)た心が腐つた葱や肉のにほひ(におい)を嗅いで涙をながした、
うらぶれはてた乞食の心でいつも町の裏通りを歩きまはつた。
愛をもとめる心は、かなしい孤独の長い長いつかれの後にきたる。
それはなつかしい、おほきな(大きな)海のやう(よう)な感情である。
道ばたのやせ地に生えた青樹の梢で、ちつぽけな葉つぱがひらひらと風にひるがへつてゐた。
(旧仮名遣い表示)
萩原朔太郎(はぎわら さくたろう)1886-1942.詩人
※転載ー(著作権は1983年に消滅)
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