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8章:残り20分 (3/3)

そのせいかプレイ後にぐったりしていた時間が長すぎたみたい。
突然、ピピピピピピというけたたましい音が小さな室内に響き渡る。
終了5分前のアラームの音だった。

(ヤバッ!
 10分前のショートアラームに気づかなかったなんて。)

大いに焦った。
とりあえず急いで洗い場でハンズさんの洗体をする。
全身なんて無理だから局所だけ洗って済ますしかない。
着替えもドタバタ。
ネクタイなんて手に持っただけだった。
そんなに急がなくてもと言いかけたが“遅れたら次の客に悪いでしょ”と居ない客の心配までする始末。

(あなた、優しすぎだよ。)

心の中で呟いた。
なんにせよ、最後まで失敗続きの接客だった。
時間配分をミスったせいで最後のハグもキスもなく慌ただしくハンズさんを見送る事になった。
フロント近くでボーイから渡されたおしぼりを受け取りつつ、一瞬だけこっちを振り向いたっきり、ハンズさんは上がり部屋へ消えていった。

(いい人、だったなぁ…。)

階段をゆっくりと登りながらふと思った。
こっちの失敗はすべて流してくれた上に嫌な事は何ひとつしてこなかった。

マイナスの部分が少ない良客。
これが私のハンズさんへの評価だった。
この時の私は大切な何かを彼に奪われている事に気づかずにいた。
致命的なそれに気づくのは半月後になる。
30 /50

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イケトラのお客様〜とある(836)のトゲ〜 ©著者:ハロウィン

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