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9章:静寂 (2/2)

誠はまだ私に気づいていない…


私は声をかけずにレジで清算を済ませ店を出た。


出入口の付近には誠の原チャリが停まっていた。


もっとよく見てから入ればよかったと少し後悔した。


誠はケンジの地元の友達。この辺で会ってもちっとも不思議ではない。



店を出て数メーター程歩いたら、後ろから肩を叩かれた。


振り返ると誠がいた…


誠「久しぶりだな」

私「うん…」

誠「ケンジは?」

私「所長さんに呼ばれてちょっと会社に行ってる」


誠「そうか… 琴美がレジしてる時気づいたんだけど、ケンジも居ると思って俺思わず隠れたんだ。でも琴美が一人で歩いてるし、駐車場見たら車もなかったからさ、一人だと思ったらつい追いかけてきちゃったよ…」


誠は初日の出を見に行った日と同じように寂しそうに笑った…


私「ずっとケンジの誘い断ってたんだってね…」

誠「もう会えないだろ…俺だって心があるから苦しいんだよ…」


私「ごめん…」



誠「いいんだ…俺が悪いんだよ…」


私「でも…」


誠「何も言うなよ…琴美との事俺は嬉しかったんだ…友達の彼女だって分かってても、自分の気持ち抑えられなかった…女は受け身だ。琴美は悪くない…」


私「誠…」

誠「まだ笑って会えないから当分理由つけて断るけど、そのうち笑顔で会えるようになるから…」


私は何も言えず下を向いていた…


誠「ケンジと仲良くな…またいつかな…」

私「ありがとう…ごめんね…」



誠は軽く手を上げて小走りで去って行った…




誠…本当にごめんなさい…


誠の気持ちを踏みにじり、私はケンジを選んだ。

誠の静かな、そして寂しげな後ろ姿を私は忘れない…



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軌跡 ©著者:コロン

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