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5章:①-5 Hamlet(ハムレット) (12/12)

「前向いて! ほらっ、普通に走れ!」

すれ違いざまに、助手席にも眼に行った。


「飛鳥、そう冷たくすんな。俺は命懸けで惚れている。頼むから側に居てくれ」

英二が左手を膝に伸ばす。そのままスカートをたくし上げて腿に這わせた。


エアコンの気流が、一気に蒼ざめた飛鳥の首筋を撫でる。


ーー飛鳥は今、確かに見た現実に打ちのめされて、ただ英二の手が卑しく貪るに任せて、力無く身体をシートに預けた。




[アスカ、ユウジさんの職業は刑事です]



クラウンの助手席に座る裕二の姿が、サングラスの中に鮮明な残像を残す。


(気持ちはほんまでも。惹かれあってはいけないひとやった……いや違う! うちは熱に浮かされて、いったい何を期待したんや! 罰や、信念を逸らした罰なんや!)


ーーーーーー

ハムレットの愛を失なった上に、父を亡くしたオフィーリアは、正気を失い歌を唄ったり、取り止めもないことを口走る。

OPHELIA: Lord, we know what we are, but know not what we may be.
『ほんとね、自分のこと分かってたって、これからどうなるか、なんにも分からないものね』

そして悟るのだ。

OPHELIA. 'Tis brief, my lord.
『あっと言う間に終わってしまいました』

ーーーーーー

飛鳥は唇を噛んだ。心臓は、鷲づかみにされた苦しさで、いっそ裂けて欲しいぐらいだーー何より、どんな言葉も思い浮かばなかった。

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白いスーツの妖精〜Miri再び ©著者:七斗

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