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1章:鳶職人・聖(たから) (2/13)

『職人サンに惚れたらあかんで。職人サンは猛獣やからな。それもなぁ、プライドが高い上に繊細な猛獣やねん。な、始末におえんやろ?』

美蔓(みつる)が笑いながら告げた言葉が頭の中をよぎる。

『女子大出たお嬢が猛獣遣いになれるか? なられへんのやったら、はなから近づかへんのが懸命や』


◇◇◇

聖(たから)のアパートで――
夜になる前に、カーテンを閉めずにベッドに入り朝を迎えた。

彩香は、清らかな朝の採光に映し出された聖の寝顔を見つめていた。

長いまつ毛が羨ましい。肉厚で口角がキュッと上がった唇が、通った鼻筋に形良く位置している。

少し茶色に染め、襟足だけ長く伸ばした柔らかい髪が彩香の頬にかかった。

腕枕をしてくれたまま一晩が過ぎ、
(いくらなんでも重いだろう)

そっと肩から頭を外そうと、絡めた手をゆっくりとほどいた――途端に聖が抱き寄せる。

「ん? お前の居場所はここだろ?どこにも行くな」

澄んだ眼が彩香を捉えた。


鳶土木の建設会社に事務職として面接に行った日に聖と出会った。

彩香はそのまま彼の姿に釘付けになり、美蔓はそんな彩香を見透かした様に言ったのだ。

『職人サンには惚れたらあかんで』と。
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