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88章:夢
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88章:夢
『だから引き払うな仕事も辞めるなって言ったのよ。ほら見なさい。その男じゃないのよあんたの男は!ちゃんと前みなさい?』
それは相変わらずぶつくさ私に文句を言う祖母の声だった。
私は夢を見ている。懐かしい祖母の家では振り子時計のカチカチという音が鳴り響き祖母が私に説教をしているのだ…
私は何も言えずただ彼女の愚痴のような意見を聞くだけ。
そして祖母は何時ものように湯のみを抱えコタツに座っていた…
ボーン ボーン ボーン
祖母の家の時計が12時をさしている。そして目線を再び戻すとそこにもう彼女はいなかった…
ふと目覚めると私は自分の家のコタツで眠っていた。夢を見ていたのだ…。
ユーリがスヤスヤと寝ている。
時刻は朝の7時を過ぎていた…
携帯を見るとタカヒロからの不在着信とメールが入っていた。時刻は4時32分。
【ごめん…】
とだけ書かれていた。
数年間共に過ごしプロポーズまでした婚約者を裏切り浮気した相手に対し放った文字は ごめん の一言。
私は失笑した。
恐らくその他に何も言えなかったのだろう…。
こうして私たちは呆気なく終止符を迎えたのだ。
タカヒロはしつこく私に弁解する事は無かった。
男らしく潔い。
そう感じた。
あいという女は、以前彼が付き合っていた子だった。別れては付き合いを繰り返し、私と付き合ってから戻りたいとかなり迫られていたらしい。
彼はこれで最後だと彼女と別れの旅行に行く事を許したと後日聞かされた。
結婚する事も全て伝えそしてあの日全て終わったと…
後で見させられたあの写真のあいという女の手首には無数のリストカットがあった。私は全く気付かなかった。
タカヒロは自殺行為を繰り返す彼女を見かねたのだろう。きっと優しい男だから突き放す事が出来なかったのかもしれない。
不思議と浮気をされた事への悲しみは消え、寧ろ彼とその子が哀れだとすら思えた。最後の別れの旅行…悲しすぎる。
そしてタカヒロは本当に悪かったと私に謝り私たちは別々の道を進んだ。
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赤いカーテン ©著者:姫
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