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58章:言葉
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58章:言葉
私の家から少し離れた場所にある大きなクスの木の下に停まっている黒いセダン。
あの日公園で見かけたタカヒロの車だ。 彼は車から降りると運転席のドアに寄りかかりタバコを吸っている。
ゆっくりと近づき私の心はドクドクと鼓動を鳴らしていた…。
お互いの姿を確認するとタカヒロはゆっくりとため息をついた。
タカヒロ『久しぶりだな。』
私『ご無沙汰してます。』
タカヒロ『どうぞ。乗って?』
彼は私を助手席に乗せると車を走らせた…。
気まずい空気を車内が包む。
タカヒロ『この近くに住んでるの?』
私『うん…。』
タカヒロ『亮さんは知ってるの?』
私『教えてない。』
タカヒロ『連絡は?』
私『たまに…メールしてる。話してないの?』
タカヒロ『亮さんの前でお前の話は禁句。』
私『そう…。』
私たちが別れた後、ユウキは亮に私を誘い飲みに行こうとしつこく言うので彼はこう口にしたそうだ…。 【別れたんだ。】 その一言を伝え不機嫌そうに立ち去ってしまったらしい。
タカヒロは薄々気付いてたのだろう。亮の変化に…。
それから私の会話は禁句。タカヒロとユウキの間でそう決められたらしい。
彼が連れてきてくれた場所は、数年前…亮たちと行ったあの海だった。
タカヒロと初めて会った場所。でも私には亮との思い出の場所なのだ…
タカヒロ『辛いか?』
私『どういう意味?』
タカヒロ『この場所。』
私『わざと連れて来たの?』
タカヒロ『現実逃避すんな。』
彼はムチを持っている。案外厳しい人だと感じた。
海岸沿いを歩きながら月明かりに照らされた道を歩く。
数年前の亮の笑顔を思い浮かべながら…私は歩いていた…
私『亮は…元気?』
タカヒロ『元気だよ。完全に仕事一筋になった。働きすぎて心配なくらいだ。』
私『サポートしてあげてね…。』
タカヒロ『人の事より自分の心配しろよ。』
私『その言葉、そのままあんたにお返しするよ。』
タカヒロ『…。』
するとタカヒロは急に笑い出した。
もう私の事は想っていない、一人の人間として会話をしている。そう感じた。
タカヒロ『流石だな。亮さんの女だっただけある。正論だな。笑っ』
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赤いカーテン ©著者:姫
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