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3章:呪縛
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ホームルームに先生から配られた進路希望の用紙。
しばらく考えて末に“家事手伝い”と書いて提出をした。
「ええっ?!女神、進学も就職もしないの?勿体ないなぁ…女神くらいの実力あるなら音大とか行けるのに」
クラスメイトで小学校の頃からの腐れ縁の恵がポッキーを食べながら口を挟んだ。
「…ピアノをどうあっても続けたいわけじゃないし、そんな気持ちで音大に入ったら、本当にピアノを好きな人に失礼でしょう?」
机の中の教科書を鞄にしまいながらそう言うと、恵は“へぇ〜”と間の抜けた声を出した。
「あんだけのテクニックを持っておいてよく言うわぁ。一度でいいからアタシも言ってみたいわ、そんな台詞」
私はピアノ以外にする事が何もなかったのよ。
貴女みたいに学校帰りに友達と遊び呆けたり、不特定多数の男と発情期の雌犬のように浮き足立ちながらデートする事なんて私には許されなかったの。
貴女もピアノしかする事がなければ私のようになれるわ。
そもそも私が本当に音大に進学したくないとでも思ってるの?
それを察する事も出来ないから貴女はいつまで経っても所詮は腐れ縁なのよ。
心を開くに値しない。
「…そろそろ帰るわ。また明日ね」
心の中で散々な悪態をつきながら教室をあとにした。
校門に向かう途中、相も変わらず空を眺めながら歩いた。
今日の空は澄んでいないせいか雲が見えない。
澄んでいない空は嫌い。
そんな事を考えながら歩いているとグラウンドのほうから叫び声が聞こえた。
「危ないっ!!」
声がより一層強くなったと同時に左の二の腕に鈍い痛みが走った。
グラウンドで部活をしていたサッカー部のボールが当たったのだ。
慌ててサッカー部の部員数人が駆け寄ってきた。
「げっ!!十和田先輩!!」
部員達の顔が次々に青ざめていく。
母の悪評は今や学校中に広まっている。
その私にボールを当ててしまったのだ。
慌てるのも当然だ。
部員達が狼狽する中、一人の長身の男が私の傍に歩み寄ってきた。
「…悪い。不注意だった。怪我はしてないか?」
それが前の夫、相馬馨との出会いだった。
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雲路の果て ©著者:ゆえ
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