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2章:操り人形
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部屋に着くとベッドの上には既に着替えが用意されていた。
「さぁ、早く着替えてしまいなさい」
そう言うと母は私からセーラー服のリボンを外し、ベッドに腰をかけた。
母は私の着替えの時は必ずこうして私の身体を監視するのだ。
どんなに文句を言っても母が聞き入れる事はない。
今やもう諦めに近い感情が生まれ、今更文句を言う気にはならなかった。
いつも通り母が見ている中、制服を脱いだ。
「あら…」
じっと着替えを見守っていた母が不意に立ち上がると私の腰を掴んだ。
「…少し太ったみたいね。食事のメニューを変更しないと」
力なく“そうかな”と答えた。
「まさかとは思うけど、買い食いをしているんじゃないでしょうね?」
「お小遣いももらってないのにどこにそんなお金があるのよ。生理前だから太りやすいだけよ」
「それもそうね。美優、貴女はママの誇りよ。いつでも誰よりも美しくなければならないのよ」
“わかってるから”と母の手を退かすと素早く部屋着を身につけた。
着替えが終わるとほぼ同時に母の腕が後ろから私を包み込み固まった。
「ああ…美優、愛してるわ。ママには貴女しか居ないのよ」
「…わかってるわ」
「美優…美優…お願いだからママから離れていかないでね。貴女は就職なんてする必要ないわ。ずっとママの傍に居てちょうだい」
「……」
高校三年生になり、進路の話が出てきたからだろうか。
最近の母の行動は例にも増して常軌に逸していた。
母は昔から私に過干渉であった。
幼少の頃はそれが当たり前でどの家庭もそうなのだろうと思っていた。
それが成長するにつれ、母の異常さに気付く事になったが、私にも母しか居なかった。
母の言いなりになるしかなかったのだ。
高校を卒業しさえすれば母から解放される。
そう思って我慢してきていたのに、ここ最近になって母は就職も進学も許さないと言い始めた。
私が進学も就職もせずに家に居るという事は、母にとってこれ以上にないくらいの好都合であった。
今までのように私を縛り、金が尽きれば父に適当な理由をつけて無心すればいいだけの話なのだから。
私は操り人形。
私の人生は生きながら死んでいるのと何ら変わりはなかった。
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雲路の果て ©著者:ゆえ
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