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9章:本編3② (1/10)

9章:本編3②

そう言われて反対側に配置されていた方の石像を見ると、確かに角が生えている。口は唸りを上げるように開かれ、足元の丸い玉を踏みつけている姿だった。

「元々は獅子と狛犬が一対になっているのが正式なものだが、時代が下るにつれて獅子と狛犬の区別がなくなって、今じゃ両方とも一般的に『狛犬』と呼ぶけどな。本来は社殿に向かって右側が獅子で、左が狛犬。同じく右側が口を開いた阿形、左が口を閉じた吽形。ここのは阿吽は逆配置だな。しかしこの右側は明らかに獅子の特徴を備えている」

言われてまじまじと見比べたが、普通の狛犬となにが違うのか分からなかった。

「まあどうでもいいよ。狛犬なんて神社によって千差万別だ。職人の個性であって、祀っている神様ともほとんど関係がない」

先に行くぞ。

師匠はさっさと鳥居を潜って行ってしまう。僕も慌てて後を追う。

参道は長く、その道の端には比較的小ぶりなクスノキが枝葉を精一杯伸ばして立ち並んでいる。

その下を通るとチチチ…… 

という鳥の鳴き声が頭上から聞こえてくる。

途中で手水舎(ちょうずや)があったので、並んで口をすすいだ。

参道の奥に拝殿が見えてきた。遠くから見た印象よりもかなり大きい。
玉砂利を踏みながら境内を進むと、拝殿のそばで箒を持って枯葉を掃いている男性の姿があった。

白衣の上に黒い着物を重ね着して、下は薄青い袴という格好をしている。見るからに寒そうだ。
しかし男性は平然とした身のこなしでこちらに向き直り、

「お待ちしておりました」と微笑みかけてきた。

この若宮神社の宮司である石坂章一さんだった。和雄の父親であり、彫りの深い顔が良く似ている。
もう五十歳は過ぎていると思われるが、背筋はピンと張っていて背もかなり高い。
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未 ©著者:hare

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