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1章:本編1①
師匠から聞いた話だ。
大学一回生の冬。
僕は北へ向かう電車に乗っていた。
十二月二十四日。クリスマスイブのことだ。
零細興信所である小川調査事務所に持ち込まれた奇妙な依頼を引き受けるために、
バイトの加奈子さんとその助手の僕という、つましい身分の二人で、いつになく遠出をすることになったのだ。
市内から出発するころにはかなり込んでいた車内も、大きな駅を通り過ぎるたびに少しずつ人が減ってきた。
はじめはゴトゴトと揺れる電車の二人掛けの席に並んで腰掛け、荷物をそれぞれ膝に抱えていたのだが、
閑散としてきたのを見計らい、僕は空いた向かいの席に移動して荷物を脇に置いた。
僕をこの旅に駆り出した張本人であり、オカルト道の師匠でもある加奈子さんは、
さっきから一体いくつ目になるのか知れないみかんの皮を真剣な表情で剥いている。
その横では窓のサッシに敷いたティッシュの上に剥かれた皮が小さな山を作っている。
「イブに温泉かぁ」
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