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18章:「結」⑩
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18章:「結」⑩
疲れ果て、最後の気力を振り絞って自転車を漕いでいた私は、家まであと少しとい
う場所まで来ていた。すべてが終わったという安心感と、なにもできなかったとい
う無力感で、力が抜けそうになる足を叱咤してどうにか前に進んでいた。
両側に家が立ち並ぶ住宅地だったが、街灯の数が足らないのか、いつも夜に通ると
少し心細くなる一角だった。
その暗い夜道の向こうに、緑色の光が見える。
公衆電話のボックスだ。子どものころの経験から、お化けの電話と呼んでいる例の
箱。
今、その電話ボックスからヒトを不安にさせるような音が漏れて来ている。
DiLiLiLiLiLiLi……DiLiLiLiLiLiLi……と、息継ぎをするように。
それに気づいたとき、一瞬ドキッとしたがすぐにその正体に思い当たる。
またあの女だ。
私が帰る時間を見計らって、ずっと鳴らしていたのだろうか。それとも今も、私の
行く先をどこかで覗き見ているのだろうか。
どっちにしろ、近所迷惑だ。こんな夜中に。
無視したいのは山々だったが、溜息をついて自転車を降りる。
内側に折れるドアを抜け、箱の中に滑り込む。ベルの音が大きくなった。
緑色の鈍重そうなそのフォルムを一瞥したあと、受話器をフックから外す。
そして耳と顎をくっつける。
「もしもし」
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