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12章:「結」④
『……それは"母親"というイメージそのものを知覚し、朝起きてからそれを思い出
そうとしたときに自分の中の母親の視覚情報を当てはめて、記憶の中で再構築が
行われているということなのかも知れない』と。
「チェーンのついたドア」や「届かない手」という記号が、そのままの姿でもその
本質を見失われないのに対し、「母親」という記号が、もし仮に別の知らない女の
顔で現れたとしたならば、それは本質を喪失し私たちにその意味を理解させること
さえ出来ないに違いない。
「母親」であるために、母親の仮面を被っていたのだ。
では、間崎京子の見た「知らない女」とは……
「わたしに、母親を殺す夢なんて見られるわけがないわ。だって、わたしはママの
顔、知らないんですもの」
静かに、彼女はそう言った。
「ママはわたしが生まれる時に死んだわ。家には写真も残っていない」
受話器から淡々と陶器が鳴るような声が聞こえて来る。
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