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2章:病院
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タクシーを走らせる事10分、病院の正面玄関に到着した。
受付で面会の手続きを済ませると看護師に面会室まで案内された。
面会室のソファーに座り、待っているとしばらくして看護師が母を連れて来た。
「……っ」
思わず目を疑った。
久々の会った母は痩せこけ白髪混じりになっていた。
そこには以前のような自信に満ちた優美な女王の姿は微塵もなかった。
「…冬月さん。ほら、息子さんですよ」
看護師はそう言いながら母を操り人形を扱うかのようにソファーに座らせると、一礼をして部屋から出ていった。
母は何やら愛しげに布製の女の子の人形を抱き抱えている。
全く話さない母。
時間だけが無情に過ぎていく。
話し掛けようと恐る恐る口を開こうとした瞬間、母が沈黙を破った。
「…ねぇ、この子、美しいでしょう?」
そう言うと虚ろな目で僕を見つめた。
「え?…うん」
母は僕が同意すると嬉しそうに微笑んだ。
「そうでしょう?でもね、取っちゃ駄目よ。この子はコウの彼女なんだから…ねぇ、樹里?」
僕に向けられていた視線を人形に戻すと優しくその頭を撫でた。
樹里?
何…言ってるんだよ…
「今はね、コウもまだ高校生だし、大っぴらには出来ないけど、コウが成人したら…ねぇ?ウフフ」
人形を樹里だと思い込んでるのか?
冷や汗が頬をつたった。
そんな僕を他所に母は人形を強く抱き締めた。
「ああ、樹里…愛してるわ。貴女を誰にも渡したくないの。早く…早くコウが成人しないかしら。貴女とコウが結婚をしたら永久に一緒に居られるのに…」
僕はその瞬間、母が最後まで隠し通していた想いに気が付いた。
この人は同性である樹里を愛していたのだ。
自らを壊してしまうほどに…。
「…母さん、何言ってるんだよ。樹里はもう…」
震える声をやっとの思いで絞り出す。
するとそれまで人形に笑いかけていた母は急に真顔になった。
ゆっくりと視線が僕に注がれる。
そしてその口は開かれた。
「…ねぇ、ところで貴方はどなたなの?」
途端に目の前が真っ暗になった。
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