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3章:三
蘭は薄暗い店内のせいか、見せられたプリクラよりもだいぶパッとしない印象だった。それより隣に寄り添う明らかなキャバ嬢の方が、夏樹にはキラキラして見えた。
彼女も騙されているのかと思うと、余りにも遣る瀬無かった。どうじに蘭への怒りが、綾がされた仕打ちと一緒に蘇る。
「夏樹ちゃんが見惚れてるー!」
唇を尖らせて一也が抗議した。見惚れてるなんて可愛らしい視線ではなかったが、確かに夏樹は蘭に釘付けになっていた。
「仕方ねぇよ、蘭さんなら」
「えー!やっぱり男も顔なのー!?」
拗ねる一也と宥める京には目もくれず、夏樹は自分の中で膨れる怒りを殺すのに必死だった。逆に一也と京が下らない話題で気を紛らわせてくれなければ、すぐにでも焼酎のビンを片手に殴りかかったかもしれない。
「あの人とも飲めるの?」
「蘭さん?代表だから忙しいだろうけど、指名すれば着くとは思うよ」
あんな男が代表なのかと、夏樹は耳を疑った。一軒を預かる人間が、その客をデリヘルに売り飛ばしているなんて、考えただけでもぞっとする。
「どうする?」
無邪気な顔で聞き返す目の前の一也も京も、似たような事をしているのかと思うと、途端に汚らわしく感じられる。気づかれないよう左手の下で右手を強く握りこむ。骨は軋んだが、頭はさっぱりした。自然な笑いで、夏樹は頷いた。
「呼んでほしい」
「オッケー、悔しいけど、ご指名って事で。行くぞー、京ー」
「あいよ。じゃーね、夏樹ちゃん」
ご馳走様でしたとグラスをぶつけて、二人はカウンターの中に入っていった。そのまま奥の控え室に消えるのを見届けて、夏樹はおしぼりで額を押さえる。
蘭に何を言うかは、綾と話し合って決めてきた。後は自分が折れなければ良いだけの話だ。しかし痩せ細ってしまった綾を思い出せば、それは杞憂だと確信できる。
絶対に綾を救う。もう、あんな風に泣かせない。
気合を入れ直して瞼を開ければ、すぐ目の前に蘭が立っていた。
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