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8章:不協和音
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「…はい。その一緒に帰ってる子と付き合ってます」
するとオジサンは勢いよくグラスをテーブルに置いた。
「いちぃ、そりゃ駄目だぁ。そんっっっな数年前に捨てられた女の事なんかスパァァァァッと忘れて今の彼女を大切にしてやらねぇと駄目じゃねぇか。」
返す言葉もなかった。
オジサンの言う事は正しい。
例え玲奈に何かの事情があったにせよ、今の僕には繭が居る。
繭に隠れて玲奈と会うのは許されるわけがない。
ふと、我に返りオジサンを見るといつの間にか酩酊状態になっていた。
「オジサン、飲み過ぎですよ。もう帰りましょう」
まだ飲みたがるオジサンを引きずるようにして居酒屋をあとにした。
「オジサン!大丈夫ですか?家はこの近くって言ってましたよね?どの辺です?」
千鳥足のオジサンを支えながらやっとの思いでアパートまで送った。
「アンタッ!こんなになるまで飲んで!本当にごめんなさいね、迷惑かけちゃって」
小柄で線の細い奥さんに何度も頭を下げられ、僕はようやく家路についた。
もうあの団地に行くのはやめよう。
電車の中でそう決意した。
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