あの日から１ヶ月が過ぎようとしていた。

私は相変わらずの毎日で、お店と自宅を往復する日々。

例のプロデューサーは、あれからたまに来ては指名をしてくれるようになっていた。

そんなある日、私はまたVIPに呼ばれた。

その日は他にもVIPを利用するお客様の来店予定があり、てっきりその人だと思って用意をしていると店長から思わぬ情報を聞かされた。

『瀬奈、いつの間に橘章と連絡取ってたの？』

店長はVIPを指先ながら、

『指名。橘章！』

と告げた。



(えっ？何で？)

パニックになるのは言うまでもない。

当然だ。

だって、私は連絡先どころか話した事もない。

ただあの日、同じ部屋にいたという以外に接点は全くない。


『ねぇ店長、指名りのちゃんと間違えてない？』

あの日最後に橘章についていたのはりのちゃんだ。

『いや、瀬奈ってちゃんと言ってたよ？』


この店に私と似た名前の女の子はいない。

でも多分誰かと間違えているんだろう。


(あまり待たせる訳にもいかないし、とりあえず顔だけ出して間違えてたらチェンジしてもらおう…。)


そう思いながら、少し緊張した面持ちで部屋に入った。