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5章:狂い咲き
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「…チャン?…明日美チャン?」
私を呼ぶ声でハッとした。周りは流行りのBGMに薄暗い証明…私は仕事中だというのにぼーっとしてしまっていた。
『…ご、ごめんなさい。ちょっと酔っちゃったかも…』
私は誤魔化すように酔ったふりをして、お客さんに断りトイレに向かった。
するとすれ違いざま店長が声をかけてきた。
「…明日美サン、大丈夫?…次、指名きたから抜くね。」
『はい。大丈夫です。』
私が席に戻ると店長が私を席から外してもう1人の指名客の席に案内した。
指名のお客さんは、最近ご無沙汰だった常連のひろクンだった。
『ひろクン!来てくれたんだ!嬉しい〜最近は仕事忙しかったの?』
私は笑顔でひろクンの水割りを作った。顔では久しぶりに会えて嬉しそうな顔をしていたが、
…実際は毎日飲みにこられるのは会話が無くなってしまうものだった。
…まぁもちろんありがたいとは思っているけど。
私がいつもどおり最近あった事をペラペラ話していると、ひろクンは水割りを一口飲んで頬の辺りを擦った。
…ひろクンの話し始める時のクセだ。
私は話すのを止めてカシスオレンジを一口飲んで一息ついたふりをした。
「…前に、話してた…妖怪のこと覚えている?」
『…妖怪…?』
「…尻尾が2本ある…猫又の話しだよ。」
私は前にひろクンに話した尻尾が2本ある黒猫、クロのことを思い出した。
『うん。でもあれは酔っていたし見間違いかもって…その猫又がどうかしたの?』
ひろクンは眼鏡をクイッと掛けなおした。
「なんとなく気になって、猫又のことちょっと調べたんだ。…猫又って、一説では人の言葉を理解して、人の言葉を話すそうだよ。」
私はその話を聞いて、子供の頃好きだったアニメを思い出して懐かしさで頬が緩んだ。
ひろクンは私をチラリと見て咳払いを一つして話し続けた。
「…もちろん、俺だって言葉を話す猫なんて信じてはいないよ。ただ、そういう説があるだけ…」
『あっ。ゴメン…違うの笑ったのは言葉を話す猫がいたら可愛いなって思っただけ。
…でも、それだけなら可愛い妖怪だね。』
「…それだけでは無いんだ。猫又は人の頭をまたいで、人に幻覚を見せたり…死を運んできたり…あまり良い説が無いんだ。」
ひろクンの“死”と言う言葉に私の胸はドキリとした。
それと同時にベッドに横たわるおばあちゃんを思い出してしまった。
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黒の扉 〜金木犀〜 ©著者:金木犀
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