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5章:狂い咲き
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目が覚めると、カーテンからは日の光りが射し込み部屋はオレンジ色に染まっていた。
私は起き上がると自分が汗びっしょりな事に気付き、そして頬には涙の跡が乾いていた。
ぼーっとする頭の中で、とても悲しい夢を見たことだけは、はっきりと覚えていた。
私は仕事に行かなければと用意をしていたが、夢の続きのような胸のざわめきが落ち着かず、そのまま家を出た…日はすっかりおちていて街灯の明かりが灯り始めていた。
向かう道は駅の方角ではなく、
逆の方向へ…
今となっては私にとって、かけがえのない大切な場所。
私に初めて人の役にたちたいと思わせてくれた大切な人。
私の立ち止まった足を未来へと後押ししてくれた出会い…
私の足はしだいに走りだしていた。
おばあちゃんの家へ、
あの場所へ…。
時は少しさかのぼる。
場所は明日美の部屋。
カーテンからは月明かりが薄らと部屋を照らしていた。
窓やドアは閉まっているのにどこから入ってきたのか一匹の黒猫がいた。
…しかし、その黒猫の姿は異様だった。左右色の違う瞳、左は金色で右は深い緑色をしていた…
なにより異様なのはその2本生えている尻尾であった。
器用に2本の尻尾を別々に動かすと、黒猫はゆっくりと部屋を見渡し、軽やかにテーブルに飛び乗り、数冊の真新しい本を見つけた。
本のタイトルは
“介護福祉士をめざす”
“国家資格介護福祉士”
“専門学校・大学紹介〜福祉〜”
とあった。
黒猫はまるで文字が読めるかのようにそれを見ると、その左右色の違う瞳を細めた。
…まるで…笑っているように。
そして何かに気付いたように、ふいっと視線を上げ…誰もいないはずの部屋に、
“―…扉が…開かれる…―”
と声が響いた。
その声と同時に、黒猫は辺りの暗闇に溶け込むように…
消えた…。
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黒の扉 〜金木犀〜 ©著者:金木犀
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