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亜椰が、電信柱の横を通り過ぎたと同時に、僕は背後から襲い掛かって、亜椰の口を塞いだ。
亜椰は小さな悲鳴をあげたけど、僕の手の中にあるクロロホルムの染み込んだ布のおかげで、すぐに気を失って静かになった。
気を失った亜椰を担いで僕は、今日の為にレンタルした車に、亜椰を乗せた。
触れたかったのに、ずっと触れることのできなかった亜椰を、担ぐだけでも、僕の心は満たされているというのに、僕の隣で眠る亜椰が、これから僕の部屋に来ると思うと、興奮せずにはいられなかった。
眠っている亜椰は、創られたように綺麗だ。
ふさふさの睫毛、筋の通った小さな鼻、濡れた桜色の唇も、陶器のような白い肌だって、全部…僕のモノだ。
部屋に着くと僕は早速、コートと靴を脱がせてから、亜椰をベッドに寝かせ、目を覚ましてから逃げ出さないように、しっかり拘束した。
拘束された白い細い腕が、痛々しい。
「ごめんね…亜椰」
そう言って、僕が亜椰の唇を撫でた瞬間、亜椰の目が開いた。
顔を隠したままの僕と、目が合う。
だが、状況を把握できなかったのか、亜椰は部屋を見渡すように、大きな目をクルクルと動かしてから、また僕を見た。
こんなに部屋を見渡したのに、僕の部屋だと気付かないのも、無理はない。
この数ヶ月で、ワンルームの普通のアパートだった僕の部屋は、拷問部屋のような部屋に変わってしまったのだから…。
今、亜椰が寝ているベッドだって、ベッドというより『処刑台』と呼んだ方が、相応しい形をしている。
「…だ…れ…?」
亜椰が消え入るような声で、言った。
僕はそれには答えずに、亜椰の顔を撫でた。
「…誰…なの……?」
亜椰がおびえているのが、わかる。
「…ねぇ…」
いつもの強い口調は、どこに行ったんだろう。
僕は立ち上がり、キッチンからナイフを持って来ると、それを亜椰に見せた。
亜椰の表情に、恐怖が増した。
「…ゃ」
今にも叫び声をあげそうだった亜椰の口を塞ぎ、僕が人差し指を自分の口に当てて、『静かにしてて』というジェスチャーをすると、亜椰は何度か頷いた。
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