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9章:春
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白い腕に引かれた、痛々しい傷を思い出す。
頭がグラリとした。
「欲しいものは、ありません。」
『寂しいよ、あたし、すごく寂しい』
寂しさに、食い潰された人。
「…けど、あたしはもう、なにをどうすればいいのか、」
違う道を歩めばよかったのか。
あの人を忘れて、もう、2度と思い出さないような、
違う
そんな道はないと
分かっていたのに。
「休んだ方がいい」
声の方を向くと、深い黒色の瞳と目が合った。
「年明けからずっと出勤してるでしょ?少し休んだら?」
「スタッフからそんなこと言われたのはじめてなんですけど、」
「俺ドライバーだもん」
明るく笑うイチイさんにつられ、あたしも少し笑った。
「まだ、休みません」
にっこりと笑みを作りながら、それだけ言う。
「…そう、」
イチイさんは、それ以上何も言わないことを知っていた。
確信犯
相手をこちら側へ来させない、静かな拒絶。
あたしは、いつから、
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