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6章:瞳
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それだけでいい。
そう言って、イチイさんはあたしの頭に手を置いた。
ふわりと香る、キャスターの甘いにおい。
「…はい、」
わかりました、と返事をすれば、
「変な子」
と笑われた。
「イチイさん、」
「ん?」
「…の、下の名前は、」
なんですか、と、まるで車から降りないための時間稼ぎのように出てきた質問に、イチイさんは楽しそうに笑ってくれた。
「瞳だよ、」
「…瞳、さん?」
「女みたいでしょ?」
そう言って、細められた瞳は、夜の闇のように深い黒。
「なんだか…」
「なんだか?」
「すごく、似合います。その名前、」
感心しながら言うと、イチイさんは一瞬キョトン、としてから、やがて照れたように頭をかいた。
跳ねた毛先が、ふわふわと揺れて、
初めて言われた、と笑うイチイさんに、あたしも頬を緩める。
気がつけば日付は変わっていて、年明けはもう目の前に迫っていた。
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