14章:長袖 (2/17)

8月の頭、

出勤前に、沢井さんから電話が来た。

｢性検引っ掛かったから、保険証持って事務所に来てくれる？｣

いつもと同じ、穏やかな声。

月に一回店で行っている性病検査に引っ掛かったと、そんな内容だった。

今日は仕事をしなくていいと言われ、スッピンのまま事務所に向かえば、加藤さんに玄関で驚かれた。

｢顔に色ないけど！｣

｢…すいません、寝起きで、｣

｢まぁいいや！とりあえずこっち来て、｣

パソコンの置かれてある机の前に座らされ、封筒を渡された。

｢検査結果｣

“クラミジア 陽性"

その他にも淋病とか、トリコモナスとか、

｢その紙持って、病院行けばすぐ治る。｣

｢あ、今からですか？｣

｢早い方がいいだろ｣

屈んで、小さい子どもにするようにあたしの頭を撫でた。

｢客から移されちまったんだな。大丈夫だ。この店は月１で検査してるから、早期発見ですぐ治るよ。｣

｢…性病、ってことですよね？｣

｢ああ、性病なんて聞こえは悪いけど、この世界では職業病だ。誰でもなる。完全に感染を防ぐ方法なんてないんだから、｣