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3章:姉の告白
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3章:姉の告白
私は帰る道すがら考えていた言葉を母に伝えた。
大団子になっていたことも、他の女の子にあげてしまったことも、本当のことを言ったら母が悲しむような気がして黙っていようと決めた。
普段、「嘘をついてはいけません」と厳しく言われていたのに、平気で嘘が言えた。
そのくせ、今にもエンマさまが怒って「嘘つき!」と舌を抜きに来るのではないかと、内心ビクビクしながら長い間私はおびえて暮らした。
残った草もちは、仲良しの玲子ちゃんと二人して笑い転げながら手をベタベタにして食べたのだった。
本当は先生なんかじゃなくて、玲子ちゃんが美味しかったねと言ってくれたのだった。
胸がきしむ音が聞こえた。
この頃はいつでも草餅があり、目に付くとちょっぴり心がしぼんで痛くなる。
私には三歳年上の聴覚障害のある姉がいる。
先日、その姉のところで草餅をいただいた。
今でも誰にも話しことのなかったその話しを、さり気なく姉に話してみた。
「でも先生がいなかったら私は今でも読み書きがこんなには出来なかったと思うよ」
「心の優しい先生だったわよ」
姉が突然言い出した。
とっさには意味が分からなかった。
私が訪ね返すと、その頃はまだ栃木の家の近くには聴覚障害者の学校がなくて困っていると、母が先生に話したらしい。
教育者として放っては置けなかったらしい先生が、私のランドセルに何冊か本を入れては、
「お姉さんに読んでもらってね」と毎日貸してくださったと言う。
本が大好きな姉は嬉しくて、私が帰るのを楽しみに待っていたと話した。
だんだんと難しい本になり、妹と一緒に勉強させてもらい、今でも感謝していると姉は涙ぐんだ。
そんなことがあったなんて…。
私はすっかり忘れていた自分に愕然とした。
長い間のわだかまりがスッと氷解していく気がした。
あの草もちも、先生はきっとあの女の子に、甘くて柔らかいお餅を食べさせてやりたかったに違いないと思えて来た。
半世紀近くも先生を誤解していた自分が情けなかった。
謝りたい気持ちでいっぱいになった。
先生は今、どうしていらっしゃるだろうか…。
今、私の胸に去来するのは、あのときの小さな女の子があーんと口を開けた姿と優しい微笑みを浮かべた影絵のような美しいシルエットだ。
胸を締め付けた。
おしまい
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草餅 ©著者:吾が肺は2個
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