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9章:パートナー
ダイニングルームは静かだった。
「誰もいないわ」
「響子さんはキッチンじゃないかな?」
『奥さんは響子さんと言うのね、それにしても…』
「今日は休みなんだよ。山崎さんは行く所があってね…キッチンに行ってみるかい?」
窓から差し込むオレンジ色の西日がキッチンの食器棚のガラスを鈍く光らせている。
響子さんは一人で座っていた。
「大丈夫かい?」
「ええ、もう何年も続けているのに慣れなくて…未だに不安になってしまうの」
「すぐに帰って来るさ」
私は2人が何を話しているのか解らなかった…ただ、オーナーの山崎さんが出掛けていて響子さんは帰りを待って夕食の準備しようとしているのだ、と思っていた。
「今日は2人がいてくれるから…ああ、マドカさんには解らないわよね、話してないの?」
「話していないよ、ちょっと忙しくしていたからね」
「そのようね、ジーンズがよく似合うわ」と私のジーンズ姿に目を止めた。
2人が私の事をさらりと言ってのけるのを聞いて、どう答えたらいいのか戸惑ってしまった。
「いえ…のんびりしてました!」
「ふふ、可愛い人ね…じゃあ、マドカさん夕食の仕上げを手伝って頂戴…ついでに山崎の悪口も聞くハメになるけど」
「はい、 悪口も手伝います」
「おいおい、マドカ…」
「あはは、いい調子よ。私達…岸田さんは知っているけれど、私と山崎は夫婦じゃないのよ」
起用にサラダを盛り付けながら言う。
「山崎は20年以上前に別居した奥さんがいるの。彼女は山崎ではなくて「医者の妻」でいることが好きで離婚には応じないの」
「別居10年目の頃、離婚話をした時に別居先に奥さんが包丁を握りしめて来て…」
「まさか…まさか?」
岸田が頷いた。
「そうよ、さすがに胸は外してくれて…腕だったけど。彼は警察を呼ばないかわりに、自分を開放してくれることを約束させたの。病院を辞たことも、ペンションを開いたことも彼女にはどうでもいいのよ。離婚さえしなければ…今でも奥さんは「医師の妻」を演じてるわ」
響子さんの声が震えている…
「山崎は今日、奥さんと会っているの…こうして一人でいると、血を流しながら私の所に来たあの姿を思い出してしまって…もう戻ってこないのじゃないかと不安になってしまうの」
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