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8章:岸田
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「着替え?」
「うん、持ってないの…」
「それなら、帰るまでずっとベッドの中で過ごそう」
「ダ、ダメよ!」
「あはは」
笑いながら岸田がベッドから降りた。
裸のまま、タオルもガウンも着けずに部屋を横切って歩いて行く岸田に私は見とれてしまった。
見とれながらつい、股間に目が行き…恥ずかしくなって、とっさに脱いだ下着を探すフリをした。
「ここにシャツとジーンズが入ってる、着られる物を探して着るといい。下着は探しても無駄だろうけど」
岸田は小さなクローゼットを開けながら言った。
「どうして?」
「ん?、あぁ…この部屋は僕が使えるようにしてもらったんだ」
「ふ〜ん?」
「これで朝までいられるかい?」
「ええ」
「よかったよ…僕は食べ物の魅力と着替えに負けて、捨てられるかと思ったよ」
「?…私食べ物は棄てないわよ」
「……」
私は拾った下着を持ってバスルームに駆け込み、シャワーを浴びた。
温かいシャワーが気持ちよく…香りの良い石鹸をつけて体を洗い流す…けれども記憶の中に漂う岸田の香りは私から消える事は決してない。
バスタオルを体に巻き付けて部屋に戻り、クローゼットに向かうと代わりに裸の岸田がバスルームに消えた。
岸田はドアの内側にかかる下着に気付いた…白いシンプルで小さなパンティが洗って掛けてある…のを見て、マドカが清潔で奇を衒っていないことが嬉しくなった。
私はクローゼットに並ぶシャツから一枚を選び、一番小さそうなジーンズを探した。
岸田が出てくる前にと、そそくさと身につけベルトで絞めるとジーンズはずり落ちないで済みそうだった。
ガチャリと音がして振り向くと、タオルを腰に巻いて頭から水滴を滴らせた岸田が出てきた。
「似合うじゃないか?」
「兄のお下がりを着てるみたいでしょ?」
「やれやれ、今度は兄か…脱いだ着替えは洗ってもらおう、今度は蹴り出さないでくれよ」
「あれは…全部聞いてたの?」
「そうさ、一言も漏らさずね」
「あの時は…一緒にいたくないのだと思ってガッカリして、つい…」
「あれは楽しかったよ」
「もう…しないわ」
「そうかな?たまに、蹴られてる気がするよ」
「?」
2人で階下に降りてダイニングに向かった。
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