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8章:選んだ道 (8/8)

「俺を殺そうなんて10年早ぇんだよ!」

包丁を叩き落とされ、また蹴り飛ばされた。
容赦なく何度も何度も蹴られ、踏みつけられる。
痛みで朦朧とする意識の中、小此木の高笑いが聞こえた。

姉ちゃん…
ゴメン、姉ちゃん。
俺、ホント何もできないや。

「ちーがやるコトない」

陽依の凜とした声が響いた。

なぜか、しんと静まり返ったリビング。

小此木が恐る恐る振り返る。

背中に突き刺さった、出刃包丁。

柄を握っているのは…陽依。

「わああああああああっ」

小此木が悲鳴を上げて倒れ込んだ。

陽依は血に染まった両手を、だらんと下げる。
弾かれたように母さんが駆け寄ってきて俺を抱き上げると、陽依の手を引いて二階へ駆け上がった。

小此木は動かなくなっていた。

俺達の部屋に駆け込み、ベッドに俺を寝かした母さんは陽依の体を抱きしめて震えていた。

「陽依は悪くない、陽依は悪くない、
陽依は悪くない、陽依は悪くない…」

言い聞かせるように、ずっとぶつぶつと呟いている。
当の陽依は真っ赤に染まった己の両手を、ただジーッと眺めていた。

俺は痛みと戦いながらも、現実が受け入れられなくて何も言えなかった…
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薫と花 ©著者:柚木

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