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6章:春の日 (7/8)

俺は愛想笑いを浮かべるコトしか出来なくて、珍しくたじたじだった。
そんな俺を見かねたのか、代表がこの席にきた。

「いらっしゃいませ。
初めまして、代表の梅崎と申します」

名刺を男女に一枚づつ手渡す。

「失礼ですが…materialの
愛香さんじゃないですか?」

「え…知ってるの?」

女がぴくりと反応した。

マテリアルのマナカ?
聞いたコトもない。

club materialは知ってる。
この街で1、2を争うほど高級な有名クラブだ。
でも“愛香”なんて聞いたコトがない。
今のNo.1はシズカだか、シズクだった気がするし。

「伝説のNo.1、
如月マナカさんですよね?」

「もう昔の話よぉ」

代表の問いかけを笑い飛ばす愛香。

代表の話では、materialのオープンから辞めるまでの、実に3年間。
愛香は不動のNo.1だったのだという。

「俺も一度、まだまだ若造の頃
先輩に連れられて、materialに行って
貴女をお見かけしたコトがあります」

代表がにっこり笑いかけた。

へー。
知らんかった。
この女、そんな有名人だったのか。

「だからぁ、昔の話よ」

なんて言いながらも愛香は、まんざらでもない顔だ。
過去の栄光を忘れられないタイプだな。

ちょうど内勤が呼びにきて、俺は席を抜けた。
指名が被ってて良かったー。
俺ってば人気者で良かったっ。
と内心、思った('A`)

あの席で俺の出来るコトはない。
代表に任せよう。
どうせ、もう指名されるコトもないだろう。
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薫と花 ©著者:柚木

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