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8章:〜別れ〜
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「明日から来ないから 村上君には言っておこうと思ってさ」
井下君にそう告げられたのは給料日の帰り間際だった
手にした額が予想以上に少なかったのだという
‘割に合わんよ’そう言っていた井下君に僕は返す言葉が見つからなかった
何を話すべきなのか それがわからなかった ここで引き留めて‘もう少し頑張ろう そしたら給料は上がるのだから’このセリフを言ったとしてもどこか違うような気がした
辞めたくなる気持ちを十分過ぎるほど理解していたからなのだろうか
[T]において努力という言葉はないに等しい
“努力したけど結果は出ませんでした”
ならばいらないのである
“努力していればいつかは結果が出るから、その調子で頑張れよ”
などという言葉は一切ない
事実、僕も常に首の皮一枚のような気がしていた それでも心のどこかで《辞めたら負け》《負けたくない》という気持ちがあり、その意地と守るべきものが僕を奮い立たせていた気がした
これからは佐山さんと川田さんだけか
「携帯変えるときは教えてな」
井下君の表情に曇りはない
「わかったよ 井下君もいつでも連絡ちょうだいね」
「[T]辞めたくなったら俺に電話して 仕事紹介するわ!」
「頼むよ」
去り行く背中が大きく見えた
自分で決めた道
口出しする権利など、僕にはない
ただ、恋人と生まれてくる子供と幸せに―
翌日―
勤務交代時間になっても井下君は現れなかった
「井下君来うへんなー」
川田さんが呟く
「休みのなったのかな 社長に電話してみるか」
なにも知らない佐山さん
「佐山君、いじめたんちゃうん?」
冗談交じりに問いかける川田さんの隣で、社長に電話をかける佐山さん
「ダメだ 社長にも連絡ないって」
「もう来うへんな こりゃ」
またいつか会える気がした
何もなかったかのような忙しさが、寂しさを紛らわせていた―
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