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16章:お化け屋敷
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16章:お化け屋敷
また、A先生のお話です。
「あそこは、お化け屋敷でした。」
口腔外科を離れ、一般歯科医院に勤めた、短い期間のことを話してくれます。
信じられないことですが、A先生の携帯電話が、盗み見られたどころか、控え室まで、CCDカメラで、覗かれていたと言うことです。
「証拠を押さえた訳ではありません。」
苦笑いをしていますが、不快感を、努めて隠しているようです。
また、その一般歯科医院では、助手や衛生士の方が、しょっちゅう、レントゲン室に消え、電話をかけていたそうです。
「今にしてみると、経営者に電話していたのでしょう。」
要は、幹部でない、雇われドクターの、あら探しをし、それを逐一、経営者に密告していたそうです。
100の治療を完璧にしても、些末な不手際を、限りなく誇張されては、堪ったものではありません。
その上、100の完璧な治療は、決して、経営者に報告されることがないのです。
「イアーゴーとキャシオーの区別もつかないのでしょう。」
A先生は、シェィクスピアの「オセロー」に例えました。
ムーア人の将軍オセローは、卑劣なイアーゴーの密告を信じ、妻のデズデモーナを殺し、キャシオーを追放します。
妻とキャシオーが、密通していると言う、下劣なイアーゴーの密告を、信用して破滅し、自害するのです。
A先生は、自分をキャシオー、卑劣な助手や衛生士をイアーゴーに例えた訳です。
経営者なら、そういった卑劣な方を、叱ることもできるでしょう。
しかし、雇われドクターは、そうは行かない。
そこに付け込まれた訳です。
そこでは私は、
「虎の威を借る狐」
に加え、
「糞味噌混同」
と言う、日本の諺をA先生に教えました。
後者は少し下品で、シェィクスピアを引用したA先生に教えるには、気が引けたのですが、
「まさに、あの方々、糞ですね。」
お酒が大分入っていたA先生は、下品な諺を、気に入ってしまったようです。
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