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54章:先生ありがとう (1/1)

54章:先生ありがとう


小学生のとき、少し足し算、引き算の計算や、会話のテンポが遅いA君がいた。

でも、絵が上手な子だった。彼はよく空の絵を描いた。抜けるような色づかいに私は、子供心に驚愕した。

担任のN先生は算数の時間、解けないと分かっているのに答えをその子に聞く。
冷や汗をかきながら、指を使って、

「ええと… ええと…‥」

と答えを出そうとする姿を周りの子供は笑う。N先生は答えが出るまで、しつこく何度も言わせた。

私はN先生が大嫌いだった。クラスもいつしか替わり、私たちが小学6年生になる前に、N先生は違う学校へ転任することになったので、全校集会で先生のお別れ会をやることになった。

生徒代表でお別れの言葉を言う人が必要になった。先生に一番世話をやかせたのだから、A君が言え、と言い出したお馬鹿さんがいた。
お別れ会で一人立たされて、どもる姿を期待したのだ。

私は、お別れ会でのA君の言葉を忘れない。

「ぼくを、普通の子と一緒に勉強させてくれて、ありがとうございました」

A君の感謝の言葉は10分以上にも及ぶ。水彩絵の具の色の使い方を教えてくれたこと。
放課後つきっきりでそろばんを勉強させてくれたこと。

その間、おしゃべりをする子供はいませんでした。

N先生がぶるぶる震えながら、嗚咽をくいしばる声が、体育館に響いただけでした。

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ちょっと泣ける話 ©著者:メルシー

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