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37章:父と弟 (1/1)

37章:父と弟


もう何年も前になる。
中学生の弟が鏡の前で一人で笑ってるのを見掛け、吹き出しかけた。
服や髪に気を遣いだし、彼女が出来たと喜んでた時期だった。
だから、今度は笑顔を作る練習でも始めたのか?と考えた。

9つ離れてるから弟が生まれる前から知っていて、あの赤ん坊が大きくなったもんだと、兄貴面して見なかったことにしてやった。

その後もそういう姿を幾度か見掛けた。

どれだけ経ってか、弟と喋るうちにやっと理由が分かった。

前に法事で親戚が集まったときに、みんな口を揃えて

「○○(弟)は笑ったらお父さんにそっくり!」

って言ってたんだよ。

俺から見ても、確かによく似てる。父が死んだのは弟がまだ幼いときで、弟は父の顔を憶えていない。
父は写真を撮られるのが苦手だったから、笑顔の写真が一枚もない。
弟は普段、誰かが父の話をしても、大して興味なさげにしてるだけだった。
だから、記憶に残ってなきゃこんなもんかと寂しく感じたこともあった。

でも、そんなわけないんだよな。弟は、ああやって父に会ってたのかと思うと、なぜか弟に申し訳なく切なくなる。
あの時、からかわなくて良かった。

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ちょっと泣ける話 ©著者:メルシー

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