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35章:父の面影 (1/1)

35章:父の面影


お父さん。

「男は人前で泣くものではない」

と厳しく言ってましたよね。
だから、お父さんが亡くなる時も通夜でも葬式でも、俺は決して泣かなかったのです。

あの頃、まだ幼稚園児だった弟はもう大学生です。
成長する毎に、顔、声、体格、なぜか仕草まで、お父さんに生き写しと誰からも言われるようになりました。

弟が俺の結婚式で着ていたのは、お父さんのスーツでした。

「これお父さんの服」

と弟に言われる迄、気付きませんでしたが。
弟はただ、ピッタリだからというだけの理由で着たようです。

しかし、それを知ったが最後、弟にばかり気を取られます。
一瞬、お父さんかと錯覚する程似て見えます。

お父さんに、今日のこの場所にいてほしかった。
そして

「育ててくれてありがとう」

と言いたかった。
初めてネクタイを締めた弟の姿を見せたかった。
様々な思いが去来する中、俺に

「おめでとう」

と言った弟の声が、 あまりにもお父さんに似過ぎていて涙を堪えきれなくなったのです。
言い付けを守れなくてすみません。
けれど、こればかりはお父さんも許してくれるのではないか、と甘く考えていることも、正直に書いておきます。


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ちょっと泣ける話 ©著者:メルシー

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