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12章:吉原で (1/1)

12章:吉原で


数年前、漏れが吉原で体験したこと。

入店して待合室に通されると、オバサンが数人の客と話をしていた。
スポーツ新聞を読みつつ聞き耳をたてていると、全盲の息子が筆下ろしをしたいと言うので、付き添いで来たらしい。

オバサン(以下母)は色々心配事を口にしていたが、話し相手の客数人は
「大丈夫」
「心配しなくていいよ」
となだめていた。

暫くたって奥から白杖持った青年と姫が待合室にやってきた。
革靴はピカピカで結構いい服をきている。この日のために揃えてあげたのだろう。

母はソファから飛び出して姫と軽く会釈したあと、

母「どうだった?いいこと出来た?」

青年「うん。よかったよ。このお姉さんのおかげで」

実は姫を指差すつもりが別の方向だったので、姫が素早く指した方向に移動。

母は顔をくしゃくしゃにして泣きながら

「あんたよかったね〜!!」

と背中を何度もさすっていた。
客も拍手したり
「よかったなあ」
と激励していて、今まで無口だった893風の客まで立ち上がって、青年の肩をポンポン叩きながら

「あんたも一人前の男になったぞ」

と祝福していた。
姫も感動して泣いていた。
実に素晴らしい光景。
涙腺の弱い俺は新聞で顔を隠しながら泣いた。

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ちょっと泣ける話 ©著者:メルシー

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