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108章:写真
俺がまだ中学生の頃の話。
親父が仕事場に手帳を忘れたと言うので、届けに行った。
興味半分で中を覗いてみたら、大量のレシートの中に若い女性の写真を発見。
親父に「これ誰」って聞いたら、親父は照れたようにニヤっと笑って「母ちゃんには言うなよ」と言った。
親父の初めてみる顔。
親父にもそんな一面があったのだ。
俺は男同士の約束をした。
でも、俺はその後も写真の女性が気になって仕方なかった。
はっきり言って美人だ。タイプだ。アイドルにいただろうか。いや、見たことのない女だった。
それに、あれは写真誌の切り抜きではなかった。一昔前のいわゆる「スナップ写真」というやつだ。男の直感というやつで、俺にはそれが親父の女だと分かった。
親父と俺の名誉のためにあえて言っておくが、決してヌード写真の類ではない。
今時のグラビアアイドルではありえない、地味目のワンピース姿の清楚な女性の写真だった。
気になって仕方なかった。
ある日、俺はとうとう親父の手帳から写真を抜き出した。
スキャナで取り込み、コピーを作った。
それから毎晩、その写真をおかずにオナニーをした。
不思議なもので、過激な性的描写をしたヌード写真なんかよりも、ごく普通の写真のほうがずっと性欲がそそられる。
が、ある日俺はうっかりベッドの上に写真を置いたまま出掛けてしまった。
ゴミ箱には前日の名残が山のように残っている。
帰宅したとき、両親はリビングで固まっていた。
「あんた、この写真どうしたの…」
当惑したような親父と母親の顔。焦った。しかしここは親父を立てなければと、根が孝行者の俺は思った。
「あぁ…お、連れにもらったんだ…ま、前から気になってる子だったからさ…‥」
親父が困ったような顔をした。余計なことを喋るなと顔に書いてある。
「いや、だから別に変な写真じゃないって…返せよ」
取り返そうとした俺に、親父が言った。
「お前…‥これ、母ちゃんだぞ」
世界中の時が止まった。
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