「んごぉぉぉ…いってぇぇ〜やめてぐれ〜 」石井の兄貴から預かっていた45口径を、ついに使ってしまった。青木んとこのチンピラのひざに一発ももに二発 打ち込んだ。ひざ頭の欠片が吹き飛ぶのが見えた。口から泡吹き出してのたうちまわってた。うちの可愛い舎弟分タケがこいつに顔を切られたからだ。しかも、ドスで三回も…。合計で顔を48針も縫う大怪我だった。当時、歌舞伎町は住吉会系の青木勢力と稲川会系の井上勢力がほぼ牛耳っていた。そこにどこの馬の骨とも知らぬ関西の山口組系のチンピラが日毎夜毎、好き勝手に暴れまわっていたのだから、争いを避けて通れる筈もない。しかしながら、関東の同業者は菱形(山口組)の代紋に皆ピリピリしていた。当時、関西最大の勢力を誇った山口組の東京進出の足掛かりとなってはたまらないと、こちらが菱形の名刺を切れば、皆、ぶるって金で片付けようと、衣とも簡単に大金を差し出してきた。しかしながら、タケのドスで顔を刃つられた事件は、許せなかった。瀬島のオヤジから厳しく報復を止められていたが、夜の街、アルコールの力も加わり、もしもの為に備えていた石井の兄貴から預かっていたコルトガバメント45口径を懐から取り出し3発も撃ちこんだ。あらかじめ弾は8発装填しておいた。